老後生活のデザインは難しく…ただただ不安を駆り立てられる⓶
薄利ビジネス介護事業
安定の老後を求めて3000万円をはたいたにも関わらず、運営法人が資金繰りに困って倒産寸前状態になる。
これは誰しもに起こり得ることであり、注意を払わねばならないのだが、一方で防ぎようがあるのかということに関し、これを書いている本人自身、疑問が尽きることはない。
今は単身世帯も増えているから、老老介護どころか介護してくれる身内がいないというのがデフォルトになってくる。家族がいる人(いわゆる既婚者)と比べると、通所介護などを使うことはずっと厳しくなるであろう。必然的に入居施設を使った介護が視野に入ってくる。
それだけに施設入所が視野に入るのだが、その施設にしても働き手が不足することは間違いない。
何より介護は利益率が低い。介護保険制度による上限も決められており(皮肉であるが介護保険は新自由主義政権と名高い小泉政権時代に作られている)、人件費が大きなウェイトを占めていることからも利益率が必然的に低くなる。
今後の介護保険制度はIT化も視野に入れたものに変わっていくであろうが、そもそもIT投資出来る事業者は多くない。
大手による寡占化も進まず
2019年度に於ける全介護事業者の平均的な利益率は2.4%であったそうだ。なお、業界のトップから順にみていくと、2020-2021年でベネッセが21位(0.7%)で、それ以下は軒並み赤字である。
実際には日本の介護事業者は大半が中小企業であり、零細企業が星の数ほどあるのが介護業界の世界なのだ。星の数ほどの介護事業者がそれぞれに間接部門を持ち、少ない利益率で運営している。構造的に介護事業者は単年度の赤字を出すだけでもかなり厳しい経営を迫られることになる。これが二年も三年も続くとどうなるか、想像に難くはない。
この状況を改善するには大手による寡占化を促した方が、結果的に利用者の安全も守られることになろう。
介護事業者は横浜市だけで1470事業者もある。中にはライオンズマンションの一室を登記している事業者もあり、零細企業同士で潰し合っているのが現状である。
弱い事業者同士で潰し合っているのだから、当然、利用者の置かれる環境もまた不安定である。
せめて事業統合が進めば良いのだが、それも進む様相は無い。買収する側としても買収するメリットが無いとやらないわけであって、そもそも大半の介護事業者は大手にとって買収する価値があるかと言うと、それは無さそうである。
大事なのは3000万円の貯金より収入源を断たないこと
3000万円でリゾート地に移り住んだ夫婦も、2年半で財産を多く失うとは考えなかったであろう。詐欺とまでは言わないまでも、ビジネスモデルとして破綻していたサービスにお金を払い、頭金を取り戻すのさえ混迷を極め、骨の髄まで毟り取られる人もいるというのだから末恐ろしいものである。
この3000万円は麻生太郎が発言した老後に必要な貯蓄とほぼ一致する。
元は老後2000万円発言で炎上したのだが、実際には2000万円ではまず足りまい。物価が上がる(或いは円の価値が下がる)ことがあるからだ。
その上で出た再試算は3000万円かも知れないということになった。
実際、働かずに悠々自適な生活をしたいとなると、桁が一つ増えるであろう。最低限1億円は貯めないと厳しい。
恐らく3000万円を毟られた老夫婦も「倅(娘)に迷惑を掛けたくない」という想いもあったのだろう。
そのためには3000万円で残りの人生の問題を解決できるならしたくなるのが、人間の情というものである。
だが、現実は厳しい。
安寧を求めて払ったはずの3000万。半額取り戻すのすらままならぬどん底に追い込まれるのだから、老後デザインというのが難しいのである。
一つだけ、ただ一つだけ明らかなのは、老後も安定をした生活をするためには。収入源を確保することが重要だ。
その意味では65歳を過ぎても、何かしらの仕事に就き続ける必要はあるだろう。
かつての世代は60歳で定年を迎え、多くの退職金と安定した年金収入を得ることが、一種の会社員のモチベーションとなっていた。
それが崩壊している今、老後の生活はしっかりとデザインしなければならなくなったのだが、悠々自適を求めることは難しそうである。