ハンガリーアルミニウム赤泥流出事故は事後対応において、直接被災した人への個別対応も優れていたものであったが、地域全体が受ける風評による対策は必要なものであった。
スーパーファミコン版シムシティでは6つのシナリオがあり、災害後の復興は元の人口より多くすることでクリアとなるが、ちょうど赤泥流出事故の事後対応は近しい課題を抱えてスタートしていたと言えよう。
写真:精華町のフリー写真素材
赤泥流出事故で失ったものは多く、それだけに「いきなり政策だけ実行」をしても上手く行くものではなかった。
目指すべき方向性をデザインし、その上で具体的な行動計画を策定する必要があった。
その目指すべき方向性を描いたものが次の項目である。
赤泥災害の影響の払拭、とりわけデヴェチェル市に関する否定的風評を払拭する
②地域的なアイデンティティ形成のため、ソフト面の事業計画を実現する
③これまで箕臼だった「デヴェチェル人意識」を強化する。さらに
④力強い地元意識を育てる
⑤地域内の相互交流を活性化させる
⑥余暇の共同利用に相応しい基礎作りをする
⑦ロマ児童、および要支援児童に対する文化事業、並びに社会的向上心の涵養(カンヨウ)につとめる
⑧住民の要望に基いて、文化活動や余暇のゆ有効利用の充実を図る
⑨諸事業間に互恵的かつ相乗的な発展を促すための総合企画を作成する⇨以上によってコミュニティ形成を促進する効果が生まれ、地域密着型の組織作り等が実現する
➉社会問題や社会的緊張の緩和
⑪都市計画に関連する機能上の問題点を解消する施策を提示する『なぜ日本の災害復興は進まないのか―ハンガリー赤泥流出事故の復興政策に学ぶ』より引用
この目指すべき方向性を定めた11の項目を基に、具体的に実施するべき政策を策定したのがデヴェチェル市の再生事業であった。
マイノリティと地域社会の在り方
日本でも地域単位で横浜人であるとか、京都人、大阪人と言った言葉が使われるが、それと似たようなものと言えるだろう。
要は「住民に地元意識を持ってもらう」ことが再生計画の大事な要点だったのだ。
この「地元意識を持って欲しい」という対象には移民やその子供も含まれている。
ヨーロッパにはロマ系の民族が各地に住んでいるが、貧困と差別が深刻になっている民族でもある。ハンガリーでも例外ではなく、ロマは貧困世帯が多かった。
デヴェチェル市はロマ問題に積極的に取り組んだ。具体的には義務教育開始前の児童教育拡充、職業訓練、失業対策だ。財源にはソロス基金が使われた。
マイノリティ問題に正面から取り組んだのも、彼らに「地元意識を持って町の発展に貢献して欲しい」というビジョンがあったからであろう。そのために貧困からの脱却、地位向上を図る取り組みとして教育が重要視されたということだ。政策としては同化政策に近いのかもしれない。
尤も、移民の行く方向性は既存の国民と距離を置くか同化していくかになる。
ロマ系移民の貧困問題と向き合い、地元意識を持ってもらい、地域コミュニティを活性化したい。そのビジョンに基いた具体的な施策が職業訓練(自活可能にする訓練)と教育の拡充に目を向けたことは評価できよう。
日本のマイノリティ問題はヨーロッパとは異なる事情もあるが、ハンガリーと比較すると、やはりビジョンを持って解決に臨んでいるとは言い難いだろう。
新型コロナ対策もビジョンの明確化こそが先決だ
日本では新型コロナ流行から1年経っても何ら解決のためのデザインは無いことが、経済的なダメージを大きくしている原因だ。
そもそもウィズコロナで行くのかゼロコロナで行くのかすらが定まっていない。マスコミは依然としてゼロコロナをベースに報道しているし、国も都も政治のためのデザインは何も持ってないのだ。
少なくとも国があまりにもアテにならない。ならせめて、自治体レベルでは「在りたい方向性のデザイン」は行った方が良いと思われるが如何か。
例えばこの記事に使っている写真は精華町という、けいはんな学研都市の一角を形成する自治体である。
けいはんな学研都市を形成する自治体間で協議をし、例えば「100年後も学研都市であり続けるために定める方向性」を箇条書きにしていくのも良いだろう。
100年先も学研都市であり続けるために目指す方向性を箇条書きにし、具体的に行うことが政策となる。
尤も、ビジョンが必要なのはコロナがあろうが無かろうが変わらぬことである。
ビル建設に建築士が作った設計図が必要なように、政策を実行するにも全体最適化のためのビジョンが必要だ。
どんな社会を創りたいのか。政策実行の前に、まず目指す社会設計を箇条書きにしてみるのは如何であろうか。