思うに「さぶれ」なる人物のSMBCソースコード流出騒動にしても、ブロードリンク社によるHDD転売事件にしても、これは氷山の一角と見るべきである。
ある意味でSIerの多重請負構造については、恐らく日本でしか成立できないビジネスとなるだろう。日本でそうした社員による盗みが少ない(或いは単純に発覚してない)のは、何も日本人がアメリカ人と違って善良な人の割合が多いというわけでは無い。同様に「盗まずにはいられない人」が少ないわけではない。やはり90%が次の3つの要因が揃えば盗みを働き得るのである。
1.盗む必要があること、あるいはそう感じられること
2.盗むという行為を正当化すする能力
3.見つからないと信じること
要は「さぶれ」なるプログラマーもブロードリンク社のHDD転売者も、この3つのどれかが当てはまり、ソースコードやHDDを盗んだのである。
さぶれ曰く「年収300万からもっと年収の良い会社に転職をしたかったから自分の力量を診断した」とのことで、理由は明確である。
これは「プログラムは書けてもコンプライアンスは知らない」ことによって起きた事件であり、悪意なく無知のままソースコードを盗んでしまったのだ。
それでも日本で盗みが少ないのは日本人が善良だからではない。アメリカ人と比べて臆病だからである。
もし日本のSI産業をそのままアメリカでやったら大変だ。いや、アメリカどころではない。日本以外では全く通用しないビジネスモデルである。よくもまぁ、こんな産業が2021年まで生き残ってきたものだと感心しかしない。勿論、悪い意味でだ。
衣食足りぬものに礼節は期待できぬ
「さぶれ」を雇用していたSESにしてもブロードリンク社にしても、働き手は労働時間の割に収入は良くない。恐らく毎月の手取りでは20万前後しかないだろう。
ちなみにダン・ケネディの父は給料が安い仕事を幾つか掛け持ち、真面目に勤務に励んでいたそうである。だが、そんな父のことをケネディはこう書いている。
全体として見れば、私の父以上の従業員を見つけることはできないだろう。いつも準備万全。時間を守り、有能で、態度も立派、自分に厳しく、殆ど監督を必要とせず、品質管理やものごとを正しく行うという倫理観を持っていた。
しかしながら、父は繰り返される盗みの共犯者でもあったのだ。そしてそれがばれる心配はなかった。その気前のいいシェフは、自分の車にもお楽しみ袋を入れていたに違いない。
(中略)
父がくち口にした十余りの言い訳を今も覚えている。
「給料が安いんだ」
「ホテルは金持ちが経営していて、ポークチョップのパッケージが1個(あるいはビーフステーキが5キロ)なくなったって惜しくもなんともないんだ」
「上司が脳たりんなのさ」
こういった具合である。事実、私たちは本当に、本当に、本当に食べ物が必要だった。
IT土方とも揶揄される日本のSI産業は多重請負構造に成り立っており、2次請け以下のSES社員は給料が安く、雇用も不安定である。
安定した雇用や地位、給料を求めて社内SEへの転職を望む者は数知れず、盗みは起きやすい環境にある。かくしてソースコードは盗まれるのだが、寧ろSMBCソースコード流出までよく表面化しなかったものである。
SIerも顧客のIT部門も猛省すべきであろう。
平均以上の賃金を出して結果を出すことを求めよ
ダン・ケネディは「顧客と関わる全ての従業員に良い仕事をさせ、良い職場環境と平均以上の賃金を出しなさい。ただし、これは気前が良いからではない。」と書いている。
魅力ある職場に出来れば単に離職率が下がるだけではなく、不祥事を避けることも出来る。もっと言うと「金出すから結果を出せ。その代わり成果出せないと解雇するぞ」という環境構築が必要というのがケネディの考え方のようだが、やはり会社を富ませるためにも従業員満足度の向上は必要なのだ。
それは下請け会社の人間とて例外ではなく、下請け(協力)会社の人間の不満を放置すると、いくら自社の社員の満足度を高めようが全て下に引っ張られるのである。
ここ最近、日本企業の不祥事が絶えない。
問題を起こした人間だけを懲戒(鳥海)山不祥寺送りにすれば万事解決、というわけにはいかない。
不祥事が起きた構造的な問題にしっかりと向き合い、原因を除去しなければ、再び不祥事は繰り返されるであろう。